Movin Café

Vol.06

情報が大量に流れ、便利が行き過ぎて、これだけ高速化した世の中には「ゆるみ」が必要だと思う。

 

巷でよく言う生産性や効率化の概念は、産業革命に端を発した西洋的思想が中心にある。

それは資本主義の世において、組織や個人が、合理、目的、議論、競争の中で過ごすこと、

つまり、合目的的に行動することが前提となっているとも言えるだろう。

カイゼンを求めて、より良質な情報を、より効果的なツールを、と追いかける内に、

気づけば休まる時間が減り、心に余裕を持てる状態を狭めてしまっているのが現状なのかもしれない。

 

では、反対に東洋的というのはどういうことだろうか。

 

そこに一石を投じた「VAISA」という商品が持つ思想と、

それを生み出したクリエイティブ集団・sindenの描く想いをここに紹介したい。

このユニークなDesignとそこに込められたConceptに多くの共感が集まっている。

 

VAISAは煎茶の茶葉をパッケージにした商品で、この商品には2つの機能が包含されている。

まずはConceptだ。

 

「価値ある時間を大切に」という想いを込めて、お茶を通じた豊かな時間に目を向けることを提案している。

茶葉から煎じて抽出されたお茶は、少し熱めの温度で急須から茶飲みに注がれる。

それを手元・口元で冷ましながらいただく「お茶」は、ひとときの「ゆるみ」を感じることができるツールとなっている。

 

もう1つの機能はDesign。

コーヒーや紅茶に比べ、若者に手にとってもらえる機会が乏しい煎茶を、

そのユニークなパッケージ・見た目で惹きつけている。

更に、裏面には住所や宛名を書く欄が設けられており、切手を貼れば「茶はがき」として、

「ゆるみ」を必要とする相手にその時間と送り手の想いを届けることができるようになっている。

 

このConceptとDesignが共感を呼び、人気商品としての呼声が高まっている。

sindenの郡司淳史氏はこのVAISAを開発するに至った想いをこう語る。

元々、人を集めて、集まった人たちがつながる世界観が好きで、音楽フェスなどを主催していました。けれど、集まって、つながって・・それ以降の発展がないことにちょっとした違和感があって、なにかその後も広がっていくようなことがしたいな、ということがVAISAを生み出す前に思っていたことです。

 

目的を持って集まる集団は、目的を果たす瞬間がピークなのだろう。

彼が覚えたちょっとした違和感、そしてタイミングが重なってVAISAが生み出されたという。

 

VAISAという商品名は、江戸時代、61歳で京都に喫茶の場を開き、70歳から高遊外(こうゆうがい)を名乗った柴山元昭(禅宗の僧侶であり、煎茶の中興の祖)の呼び名「売茶翁:ばいさおう」から取って、名付けている。

 

そもそも、お茶(煎茶)が広く一般に普及したのは江戸時代中期と言われている。

その当時は「茶道」において概念の形式化・和敬静寂*¹(わけいせいじゃく)と言った標語化が進み、

どういったことが詫びで、美しいものがなにかという定義がきっちり決まっている時分だったそうな。

それ故、「お茶」というものが一部の主人や賓客にしか用意されないものとなり、

その存在が庶民には手の届かない高尚なものになっていたという。

そこに、形式を定めず、定価もその場で決めるような一服一銭*²の「お茶」を振る舞いながら、

哲学的な問答を行い歩く、売茶翁(ばいさおう)が体現した「煎茶道」は、

庶民の間で一躍ムーブメントとなり、急速に「お茶」の存在を身近なものに変えていった歴史がある。

 

郡司氏が描く世界はこの考え方に強く依拠している。

目的を持って集まるのではなく、集まった場にお茶があって、そこで対話が生まれ、そこから新しい考え方や気付きが生まれて、次へきちんと繋がっていく、という売茶翁が活動した世界にとても大きな共感がありました。そして、自分がVAISAをつくり、いざ急須で煮出した煎茶を売って歩いてみると、お茶が生み出す力を実感して、そこでしか生まれない会話と本当に多く出会うことができました。やはり、お茶がある場、お茶を通じてなされる会話ということが、とても日本人にフィットしていると感じました。そして、無目的に対話をして過ごす空間の心地よさってあるだろうな、と確信しました。

 

「ちなみに・・」と続けて、

とにかく忙しい世の中で、街を歩けば皆スマホ、スクリーンばかり見て、実際に顔と顔を合わせるコミュニケーションが減ってきてしまった現実が目の前にあって、これって課題だよねと思っています。だから現代にこそ売茶翁が必要で、僕たちが現代の売茶翁になろう!と思ってはじめたものが、今、形になってきました。ただ、VAISAでは事業のスケール(拡大)を目指していなくて、「面白いことやってるね」と人が集まって、そこにお茶がある、という世界をもっともっと広めていきたいな、と思ってやっています。

 

彼は、お茶を通じて生まれるその空間、場のことを「コミュニTEA」と名付け、

そこに生まれる景色を「和合*³」と呼ぶ。

お茶を土台に「コミュニTEA(人々が集まる場)」が出来て、
今、少しつづ準備しているのが「アメニTEA(快適さ・心地よさの促進)」です。
更に、その場で「チャリTEA(慈善活動・寄付など)」が活発になると、
これからの時代に適した新しい「ソサイエTEA(社会・共同体)」が生まれると信じています。
こうした「和合」を沢山の場所に作っていけるようにして、世界をもっと平和にしていきたいと思っています。

 

現在チームsindenは「コミュニティラウンジ 和」という移動型コミュニティをスタートさせ、

福岡を皮切りに、様々なところへ、このコミュニティを展開しようとしている。

更に、今後は行政と連携して、コミュニティスペースやホテルなどに置けるアメニTEAを増やし、

そこで得たネットワークや資産を、お茶の業界に還元(チャリTEAを体現)していくのだという。

パッケージ内のVAISAくん(男性)は日本全国を歩き回っている最中なのだという。隣にいるのは舞妓さん(女性)。彼らは常に同じ絵の中にいてカップル然としているものの、まだ正式なお付き合いをしていないのだそう。今後シリーズは47まで続く予定で、いつ彼らがお互いの本音を認識し、縁は結ばれるのか。この先のストーリーにも乞うご期待。

 

ひとつの固定的な価値観で振る舞う訳ではなく、目的をもって競争するでもない。

その場で起こることに委ねつつ、多様なひとを巻き込み、

自分たちが想い描くその世界を形成していく様は、森や山や海のような「自然」そのものだと感じた。

 

sindenを立ち上げたクリエイティブディレクターの郡司淳史氏

 

文責:丸尾 拓也(Movin’ café編集長)

 

***

(注釈1-3:Wikipedia参照)

*¹ 和敬静寂:茶道の心得を示す標語で、意味は、主人と賓客がお互いの心を和らげて謹み敬い、茶室の備品や茶会の雰囲気を清浄にすることという意である。特に千家ではこの標語を千利休の定めた「和」、「敬」、「清」、「寂」を表す「四規」として重要視している。

*² 一服一銭:室町時代の1400年頃になると、東寺の門前などで参拝客に茶湯一杯を安価で供する「一服一銭」などが生まれ、これらを通して一般人にも喫茶が広まっていった。この「一服一銭」が茶屋の原型となるが、当初は縁日などに茶道具を持ち込んでの立売が基本で店舗を持たないものであった。

*³ 和合:仲良くなること、親しみ合うことを指す言葉。五蘊仮和合(ごうんけわごう)・仮和合といった仏教用語を由来に持つ言葉である。

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

Related